2006年10月18日
■ ロングテール
初めてこの言葉を聞いたときは「恐竜のシッポ」を思い浮かべました。
ロングテール
「売れない商品」を宝の山に変える新戦略

クリス・アンダーソン
篠森ゆりこ 訳

早川書房
ISBN4-15-208761-7 C0063
¥1,700+税

「ロングテール」(長いシッポ)。
日本では今年、一部でさかんに使われたキーワードでした。

ざっくりと言えば、Webの世界では、華やかなひと握りのヒット商品の影に隠れた、地味で膨大な数の不人気商品にこそ見逃せない商機がある。そのあたりのイメージを説明するために不人気商品の存在と位置づけをグラフで視覚化すると、あたかも動物の長いシッポのように見えるために付けられた言葉です。

著者クリス・アンダーソン氏はWired誌の編集長。(それ以前の経歴も興味深いところ)そしてキーワード「ロングテール」を初めて広めた人。本書は「ロングテール」の解説だけにとどまっていません。この言葉をきっかけにして今の世の中の市場と消費者の志向、文化、メディアの動向など、読者に少し大きな視野を与えてくれるところが魅力です。

流れの早いWeb界では、ロングテールは言い尽くされた言葉と思い込んでいる人が多いのではないでしょうか。でもこの本にはタイトルから来る先入観が良い意味で裏切られる、いくつもの「発見」があります。それは著者が読者に分かりやすく解説するために、多くのビジネスの実例をちりばめている点です。私は時々、商売のヒントを探しに街を散歩する事があります。本書を読み進むと、まさしく情報収集の散歩をしている気分になれるのです。しかもアメリカの街を。

ハードカバーの外観と力強いタイトルに圧倒されますが、実際には娯楽的な読み物としても充分受け入れられる。そんな当たりの柔らかい雰囲気が生まれているのは訳者のなせる技ゆえでしょう。

じゃあ、小さいなりにもオンラインで販売をしている私にとって「ロングテール」はどうなのかと言えば、やっぱりそれがすべての正解ではないと思うし、素人なりに違う向きでありたい。でも好まなくてもWebで生きる以上、「ロングテール」の仕組みの中にしっかり取り込まれてしまっている事実に変わりは無いのだと、この本を読んでよく分かったわけであります。

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