ステーショナリープログラム 2007年2月14日
■ ボールペンとえんぴつのこと

銀座の文具店「五十音」の店主、宇井野京子さんが書かれた本です。

ボールペンとえんぴつのこと表紙
銀座の小さな文具店 ボールペンとえんぴつのこと
宇井野京子 著
(株)木楽舎 ¥1,500.+税
ISBN4-907818-83-1 C0072
昨年11月に出ました。私が忙しかったせいもあるのですが、ご紹介が遅れてしまったのは、なにより「表紙が上手く撮れない」からでした。
真っ白な用紙に奥ゆかしい書体の題名と繊細な線画は、背景を変えても、照明を工夫しても、思い通りに決まらなくて。(単に自分に撮る腕が無いだけなんですけれど。)
そうしたら、なぜか手持ちが一番自然な感じになりました。宇井野さん、遅くなってごめんなさい。
宇井野さんは素敵なかた。そして不思議なかた。なにしろこの本は丁寧に製品が紹介されているのに、まるで「世の中には欲しくてもすぐに買えないものがあるのですよ、ふふふ。」と言われ、遠くに逃げられてしまった気がしてならないのですから。

文房具の本を書く際の方向づけのひとつに「お買い物案内」の要素を含めるか、含めないかの選択があると思います。ステーショナリープログラムを始めた頃も、まずは文房具メーカーの人に見て欲しいと思ったので「ここはバイヤーズガイドではありません」と、わざわざ明記していた時期がありました。

スペックや書き味評価等をそぎ落とした文房具への真に精神的な想いを、自分の世界だけでクローズさせて表現する方法がひとつあって、もうひとつは読み手にも同じものが買える選択肢を意識しつつ製品紹介のスタンスを取る方法があって、これら2極の間のどの辺りに位置付けするかを、著者の皆さんは心に決めて書いているはずです。

前者に振ると読者に書き手の何を言わんやを冷静に読み取ってもらえそうな期待があります。反対に後者に振ると、読者の興味は買える製品そのものに傾いてしまうのではないかという不安が生まれます。なにより(雑誌ではない)書籍には思いっきり前者に傾けてもよい「特権」が有るのですから、これを使わない手はありません。などと考える私は可能な限りお買い物案内には近づけまいと表現の研鑽に努めるものの、結局は気を緩めてしまいステーショナリープログラムも「文房具を楽しく使う」も後者に流れてしまっております。

そのような見方からすれば、本書は「読者にも買える」をかなりバッサリと切っているところが爽快。

、、、語弊があるかな。言い換えますと著者は、文房具はとても私的な世界の事なのだから「隣の人が使っている、だから自分も使ってみよう」ではない、別の出会いかたもいっぱいあるんだよと示唆しているのではないかと解釈してみました。(勿論これも楽しいと前置きして)「ブログで紹介されている→だから、自分も使ってみよう→アフィリエイト等で商品がお膳立てされている→買えた」とは違うきっかけが本書の中にちりばめられていると思います。

こうしてお買い物案内とは一線を引いた本書は、文房具の本でありながら純粋な「作品表現の場」に昇華しております。ミナモト忠之氏による美しい写真もそれを支えています。写真を観て、宇井野さんの文を読み進み、一冊の中の「個展」を楽しめる趣向です。

個展を充分に楽しんだ私は、実際のお店(五十音)を訪ねてみようと銀座の路地に入っていったのでした。けれども、お店でもまた「ふふふ」と逃げられてしまった感があるのは、私だけでしょうか。

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