コラム「前向き↑文房具」
第2回:「この替芯を使いたい!」
ひとつの替芯を追いかけたお話です。
出会いは銀座の伊東屋さん。2004年ごろかな。
ドイツ・ペリカンのローラーボール:「グランプリ」。
(ローラーボール=水性ボールペン)
ペリカンと言えば高級万年筆で有名な筆記具メーカー。
でも時々、手ごろな価格のボールペン類も出しています。
当時は変わった製品ならばと何でも買っていたので
本品をつかみ反射的にレジに向かいました。
まっ、ペリカンと言えどもかなり安価なモデル。
キャップの作りはチャチですし
軸全体を覆うソフト樹脂塗装は2ヶ月も経たないうちに
うす汚くなって、表層がはがれてきてしまいます。
しかし、中身。つまり、替芯だけは違っていました。
見た目は、替芯と言うよりは
万年筆のインク・カートリッジに近い感じ。
そのカートリッジの端部にペン先が備わっています。
字幅がM(公称0.5mm)のローラーボール替芯は
書き味がソフトで、筆圧と筆記角度を調整すると
実に気持ちの良い書き心地に。
万年筆に似てサラッとした、美しい青色インクも美点。
(のちに成分も万年筆とほぼ同じ作りのインクと判明)
まさに「替芯に一目惚れ」です。
そこで考えたのは
「ペリカンではこういう替芯は製造していないはず。」
「きっとドイツの替芯専業メーカーのものだろう。」
というもので、それならば、他の筆記具メーカーからも
同じ替芯を採用した製品が出ているのではないかと
ドイツのWebサイトを徹底的に検索してみました。
ありました。
ドイツのシュナイダーというメーカーに
ほぼ同じ替芯を使ったローラーボールが。
品名は「ベースボール」。
たまたまドイツ出張を控えていたので、
現地に行ったら探してやるぞ!と鼻息を荒くして出発。
そうしたら、最初のお店で見つけちゃいました。
この替芯、
どうやらシュナイダー自身が製造している様子。
品番は「#880」
シュナイダーは、同じくドイツのシュミットと並んで
替芯の製造・供給で有名なメーカーです。
ともかく私はドイツの文具店でこれを大量購入。
もちろん替芯もしっかりと。
日本に帰り、ベースボールを机に並べてニコニコ
していたら、なんと日本でもシュナイダー製品は入手
できる事が判明。狼狽するやら、うれしいやら…。
さて、前述の「他の筆記具メーカーからも」という
予想は的中し、こんどはステッドラーから同じ替芯を
使った製品が発表されました。
ここでお気付きのかたも多いはず。
この替芯を使ったペン達、どれも子供っぽいデザイン。
じつはこれらのペンは小さいお子さんのための
「かきかたペン」つまり文字を練習する目的でも
作られているようなのです。
当初は#880替芯を使えるだけで満足していた私も
しだいに子供っぽいデザインが気になり始めます。
ユーザーの気配を感じ取ったのか、それとも優秀な
#880替芯を大人向けにもという販売戦略になったのか、
まもなくシュナイダーは「アイディー・デュオ」を発表。
ブラックボディにふたつの#880替芯が使える状態で
収まるという気の利いた仕様。
信頼文具舗でも人気のモデルとなりました。
これで#880替芯の将来は安心です。
ところで、この替芯にはバリエーションと
改良の歴史があります。
最初に手にした替芯(#880)は次のような仕様でした。
・ペン先のボールは金属製
・チップ(ボールを保持する部分)は樹脂
・インクはフェルトに含浸させる方式
そのほかに#881というのものもありました。
・ペン先のボールは同じく金属製
・チップ(ボールを保持する部分)も金属製
・インクは液状のまま保持する方式(直液式)
この替芯を装着した本体には「ベースアップ」
という製品名が付けられていました。
#880はインクをフェルトに含浸させる方式で
ちょっと使うとすぐにインクが無くなりました。
一方の#881替芯は、インクの量こそ多いものの
チップが金属で書き味が固いのが難点でした。
そうしましたら、なんと、
#880替芯は画期的な改良が施されたのです。
ソフトな金属ボール+樹脂チップはそのままに
インク保持方式が直液式になりました。
(同時にベースアップ用#881替芯は廃番に)
直液式の効果でインク湧出量が若干増加し
書き味の滑らかさもさらに高まっています。
この改良型には新しい品番「#852」が付与され
一気に完成形へと進化したのであります。
そのほか#852について、こんなことを試しました。
替芯の本体にテープ類を2周ほど巻くと
その直径が鉛筆とほぼ同じになるのです。
つまり、これを鉛筆補助軸にセットできるのです。
となると、、、そうです、
万年筆風補助軸「ミミック」に装着できたのです。
「ミミック」は鉛筆補助軸ブームの先駆けとなった
銀座の筆記具専門店「五十音」さんの作品。
本品はキャップ付きの補助軸としても先駆のひとつ。
また、万年筆風を謳いながら、着脱式のペンクリップを
取り外せば極めてシンプルな外観となり、趣味として
手元に置きたい人にも、道具として活用したい人にも、
多くのライフスタイルに幅広く・するりと馴染んで
しまう懐の深さが特徴です。
ミミック+#852のメリットはほかにもあります。
もともとが鉛筆補助軸ゆえ、替芯の装着位置を
前後好きな所にセットできます。自分の手指の大きさ
や持ち方の好みに合わせて微調整が可能なのです。
キャップ付きなのでペン先の乾燥も防いでくれます。
その後私は#852替芯に特殊なチューブを巻いて
セロハンテープ無しで装着できるようにして
見た目のグレードアップもはかりました。
インクカートリッジとペン先が近接・一体となった
最新タイプの替芯と、クラシックな外観と素材の
本体軸とがセットになり、滑らかな書き味と適度な
重量バランスが実現。しかも使い手の満足をも獲得し
私の約9年越しの夢が叶うことになりました。
私はこれまで、拙著や各所において
「ボールペンは替芯が命」とご紹介をしてきました。
「替芯起点」で考えると今までとは違う新しいこと
が見えると感じたからです。そして今回のこの
#852替芯については、くしくも私の考えを自身で
実践し、良い結果を得た例となったのです。
本コラムは#852に関する私のフィールドワークの
総まとめです。ミミックまでとは言いません。
まずはベースボール、あるいは ID DUO あたりで
この良質な替芯を体感してみてください。
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