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SPRG Review オレンズネロPP3002

 
ぺんてる(株)から発表されたシャープペンシル「orenznero(オレンズ ネロ)」。国産では久しぶりに自分で使ってみたいデザインと思い、早速入手しました。 
 
オレンズネロ側面
 
■ 製品 
本製品はぺんてるの「オレンズシステム」を搭載したシャープペンシルです。このシステムでは筆記のとき、シャープペンの芯全体が常に金属製のガイドパイプに守られていて、芯が折れにくい仕組みになっています。オレンズシステムにより、0.3mmや0.2mmといった極細芯にもかかわらず、特段の気遣いなく普通のシャープペンのような感覚で筆記が出来るようになっています。これまでもオレンズシステムを搭載した製品:「オレンズ」がありましたが、今回の「オレンズ ネロ」では芯を自動的に繰り出す「自動芯出し機構」が追加されました。いちどノックボタンを押してガイドパイプ(と芯)を出したら、あとは残り芯の長さの限りノックボタンを押さずに筆記の継続が可能になっています。 
 
外観は手の込んだ造形とブラックボディで高級感があります。一見すると真鍮(しんちゅう)に塗装を施した金属素材のようですが、実際には口金とノックボタン、ペンクリップ以外は樹脂製。手にするとまもなくのうちに軸本体が体温と馴染み快適です。メーカーによると樹脂に金属粉を混ぜて成形しているとのことで、手にフィットする、ほどよい重量感と本体軸の絶妙な前後重量バランスが実現されています。ペンクリップの全長が短く、筆記時に無意識のうちに軸を回しても、ペンクリップが手に当たりづらい配慮もされています。 
 
オレンズネロ俯瞰
 
グリップ部分の長さは本体軸全長の45%近くにも及び、手指に部材の継ぎ目等が当たることはなく、違和感無く筆記が可能です。加えてそのグリップの長さが「オレンズ ネロ」の外観上の特徴にもなっています。グリップ部分の滑り止め加工は12面+細かなスリットタイプ。いっぽう後半の軸部分は伸びやかな12面処理。軸中心周辺の「くびれ」も加わって、オブジェのような存在感と(間延びして見えない)適度な緊張感とがバランスした、世界的に見ても優れたスタイルの筆記具に仕上がっています。
 
■ ぺんてるについて 
ここでちょっと寄り道を。私はこれまでかなりの本数のシャープペンを買ってきましたが、なかでもぺんてるの製品には多くの思い出と思い入れがあります。まず最初に買ったシャープペンがぺんてるの製品でした。もしかしたら、本製品はぺんてるで最初のノック式シャープペンかもしれません。0.9mmの芯をノックして繰り出す本製品は、スリムなボディながら質実剛健で、私が買ってから半世紀近く経った今でも現役です。シンプルで真面目。こんな昔から「ぺんてるらしさ」にあふれる製品です。 
 
ぺんてるシャープ
 
ぺんてるが凄いのは、昔から「芯種」の開発に積極的なところです。おそらく1970年代のなかごろには極細の0.2mm芯を発売していたと思います。文房具店に行くと、0.2/0.3/0.4/0.5/0.7/0.9…と、フルラインアップで替芯が展示販売されていました。当時、これらの芯は主に設計製図向けに開発されていたので、ぺんてるは製図用シャープペンも取り揃えていました。なかでも高級モデル「メカニカ」シリーズはあこがれの製品でした。同時に安価な普及モデルもラインアップしていたわけで、早い時期から上級モデルと普及モデルを揃える姿勢も筆記具メーカーとして立派であったと思います。 
 
メカニカシリーズ
 
ぺんてるの製図用シャープペンと言えば、外せないモデルがあります。「GRAPH1000 for PRO」です。ブラックのストレートボディ。グリップ部は金属部材の内側から部分的にラバー素材を露出させた個性的な処理。口金はコーン(円すい)型ではなく多段円筒状のデザイン。それらの結果、シンプル&スタイリッシュな製品に仕上がっていました。折りしも当時、私は大学で機械設計製図を履修しており、このシャープペンを使うことが誇らしい気持ちでした。設計製図では0.9mm芯において相当の筆圧を掛けるため、口金とグリップとの境界部分の剛性にいまひとつ不足を感じていたものの、GRAPH1000を手にすることで気持ちが高まり、製図台に向かって徹夜をするのも気にならないほどでした。 
 
GRAPH1000
 
■ オレンズを愛用 
話を元に戻します。私はこれまでも普通のオレンズを使ってきました。0.2mm芯で500円台の「普及モデル」です。最初は「オレンズ?…日常運用する見込みは無いけれど、とにかく試してみるか!」という気持ちで購入。ところがこの最初の個体は、私のシャープペン人生の中で初めて「自然故障で使えなくなる」という不名誉を生んでしまいました。しかしながらその故障が発生した時点において、私にとってオレンズはすでに手放せない存在になっていたのです。もちろん、すぐに2本目を購入しました。 
 
3本のオレンズ
 
オレンズシステムに守られた極めて細い0.2mm芯。シャープペンの芯先はルーペで拡大すると円柱の断面になっているのがわかります。この円柱のエッジ部分が筆記の際、書き手の意図しない方向に芯先を誘導してしまい、少なからずの不満を生んでいます(いるのだと思います)。芯を細くしてしまえば不快な「円柱効果」は軽減されますが、そのぶん芯の強度は低下します。オレンズシステムが有れば、芯折れの心配無く極細の芯をハンドリング出来るわけです。そう、シャープペン芯に特有のクセを可能な限りゼロに近づけて筆記出来るのであります。 
 
では肝心の、「オレンズ0.2mm」を何に使ってきたか。ひとつめは小型の手帳(ダイアリー)への記入です。フランスの「クオバディス・プレーン」。このダイアリーは見開き1ページが1ヶ月分のレイアウトになっています。たった4ミリの横罫線1本に1日分を充て、紙面サイズも有効部分で70×100mmしかありません。ここに小さな文字で緻密に書くために0.2mmの芯が発揮されるのです。手帳にシャープペン?と思われるかもしれません。シャープ芯の材料は黒鉛系ですから、じつは経年変化に強いのです。消しゴムで消すことも出来ます。プレーンに使われている用紙は、一見平滑ながら実際には細やかな凹凸のある表面で、極細シャープ芯を確実にキャッチしてくれてうれしいです。 
 
クオバディス・プレーンの紙面
 
その次はMOLESKINEのJAPANESE ALBUMへの記入。長期保存したい情報を控えているノートです。この一冊に大切かつ大量の情報をチマチマと小さい文字で記入しています。使われている紙はかなり厚手の画用紙で、用紙表面の凹凸もまた0.2mmのシャープ芯と相性が良く筆跡は明瞭です。そしてmarumanの図案スケッチシリーズ、つまり本当の画用紙にもオレンズ0.2mmを使います。画用紙ですからノート向けに使われている通常の用紙とは違い、とんでもなく大きな凹凸が紙面に展開されているのは皆様もご存じの通り。そのような状況でもオレンズなら大丈夫。ちょっとした下絵を描く際に0.2mm芯であれば細い描線で仕上がり具合が良いのです。デコボコ紙面の画用紙に0.2mm芯が平気で使えるありがたさと言いましたら! 
 
■ オレンズ ネロを導入 
そうして3本目の導入となったオレンズが今回の「オレンズ ネロ」です。 
 
普及版オレンズのユーザーだった私の「ネロ」への期待項は、「芯先の剛性感や精度」,「軸の持ちやすさ」,「所有するうれしさ」あたりでしょうか。・・・はたして「オレンズ ネロ」はその3つの期待を満足するものでした。 
 
オレンズシリーズの芯先
 
まず芯先から手指に伝わる感触。口金から突出するガイドパイプの最大全長はオレンズとネロとでほぼ同一。指の腹でパイプの先端を軽くゆり動かした時のブレの程度もほぼ同じ。しかし筆記を開始すると、(決して見えているわけではありませんが)口金の内部の各種パーツが芯を保持した結果生まれたのであろう、芯の縦方向の反力について、ネロのそれはほんの少しですがしっかりとした感触を認識出来ます。クルマで言うとサスペンションのゴムブッシュを一段硬くした感じ。これまででも充分実用だった指先と芯先との一体感がさらに高まっています。 
 
ここでひとつ情報です。これまでのオレンズは持ち歩きなどでガイドパイプを口金の中に収納する際、ノックボタンを押しながらガイドパイプを指で軽く押し込めば済んでいたのですが、ネロではガイドパイプの先を机のような硬い所を使ってしっかりと押し込まないとガイドパイプを収納出来ません。本件は添付の取扱説明書に記載がありますので、一度ご確認をお勧めします。
 
軸の持ちやすさ。これは個人的に明らかに「オレンズ ネロ」に軍配が上がります。オレンズシステムはその目的と構造上、ガイドパイプが長くなります。このガイドパイプ部分を含め、筆記具の軸をつかむ手指の最先端から芯先までの全長が長くなるほど筆記時の軸の角度は浅く(=垂直では無いほうに)なります。しかしオレンズシリーズで一番快適な書き味を得るには、ガイドパイプ先端の角ができるだけ紙面を滑走しない、つまり軸をある程度垂直に近い角度にしなければなりません。そのためには手指が軸の先端領域をつかめるようなグリップ形状と、垂直に持っても疲れない適度な軸の直径に「調製」する必要があります。筆記具のつかみ方は人それぞれですが私の場合では、手指の最先端から芯先までの長さ(これを仮に「指先芯先間距離」と命名します)はオレンズで23.0mm、ネロで19.5mmとなりました。それだけネロのほうが持ち方の自由度が高いことになります。 
 
持ち方の違い
 
ところで筆記具をつかむ際、よく筆記具の重量重心の前後位置を問われる場合があります。これは筆記具にとって大切な指標となるのは間違えありません。ただ、「筆記具の重心」は人をその気にさせるのに便利なキーワードなので、安易に重心ばかりを声高に言う「専門家」も見かけますが、実際は、重心問題については使い手の制御で解決できなくもない課題だというのが私の最新の見解です。むしろ重要なのは、物理的な制約のためユーザーの側ではコントロールできない、軸の形状と寸法。つまり「手指でどのくらい先端までつかめるか」とか「軸の直径はどうか」といった部分にあると考えています。その観点から、「オレンズ ネロ」はオレンズシステムの実力を発揮するための一番大切な部分を改善していることが解ります。 
 
さて3つめの「所有するうれしさ」。これも私としては合格点です。いままでなんとはなしに思っていた疑問があります。「なぜ各社のシャープペンシルは、高級感を出そうとすると皆、製図用シャープペンのような外観になってしまうのだろう?」という事です。ここで言う製図用シャープペンとは、例えばローレット(=斜めギザギザ)加工の存在感あふれるグリップとロングボディ、そしてノック部分のコロンとしたデザインを指します。いまや製品図面は電子化が当たり前。紙に線を引くのは本当にごくわずかの場面でしか行われていません。それなのに、せっせと製図用「風」シャープペンを出すのはおかしいのではないかと思っていたのです。「オレンズ ネロ」は、上級モデルを演出するカチッとした外観を基本にしていながらも、全長は普及版オレンズとほぼ同じ144mm。グリップは余分な存在感よりも使い心地優先と見て取れますし、ノックボタンは小型です。将来的には「オレンズ ネロ」のスペックはそのままに、より快活な外観をまとったバリエーションの登場も期待したいですが、まずはシリーズのイメージリーダー的存在として、そしていたずらに製図用シャープペン的なテンプレート(=ひな型)を追わない独自のデザインアプローチとして、「オレンズ ネロ」は正しい結果を導いているのではと評価しています。 
 
■ 筆記してみて
一部は説明済みですが、いまいちど筆記について絞ってみましょう。私が購入したのは「オレンズ ネロ」の芯径0.3mmと0.2mm、ふたつあるうちの0.2mm版です。先述の「シャープ芯のクセをゼロに」の理想に近づけられるのは0.2mmのほうと考えたからです。今回テストに供した用紙は筆記具の標準試筆用紙として定着しつつあるmarumanのビジネスノート「ニーモシネ」と、私がそっとレファレンス(=比較参照用標準)にしているフランスのブロックメモ「ロディア(ただし罫線印刷の無いスペシャルバージョン)」、それと、どこでも入手可能なmarumanの「スケッチブック・図案シリーズ」の3つです。 
 
試筆に供したノート3冊
 
筆記時の感覚は、基本的にはこれまでの普及版オレンズとほぼ同等。軸の角度を垂直に近づければ、どの用紙も快適に筆記が可能です。次に「オレンズ ネロ」から新たに追加された「自動芯出し機構」について。この自動芯出しという機能は、ざっくり30年ほど遡ってもすでに似たようなものが存在していて、また大抵は「期待はずれ」というのがお決まりのパターンでした。大昔、大枚はたいて買ったファーバーカステルのalphamaticという自動芯出し式シャープペンの完成度が低くて、一週間そこそこで使用をやめたという苦い経験もあります。さて、「オレンズ ネロ」は、なんとうれしい誤算でした。軸を垂直に近づけて書いている限り、芯出しは確実かつ滑らかに動作し、ユーザーにあまり不自然な思いをさせません。普及版オレンズと比較して、(適切な用紙の選択と書きかたへの一定の配慮を要するものの)自動芯出し機構が追加されて筆記感が大きく後退したということもありません。これも素晴らしいことだと思います。この機能を重視している人ならば「6倍の値段差」にも納得出来てしまうと思います。 
 
筆記対象となる用紙の違いについて、ニーモシネ・ロディア・図案シリーズともに、ネガティブな点を見い出すことは出来ませんでした。ニーモシネなら滑らか・ロディアには明瞭な描線・図案シリーズのデコボコ紙面にも芯折れ無しと、それぞれに優秀です。・・・興味はむしろ、製品本体によりも芯の硬度の違いにありました。いまオレンズシリーズに対応するシャープペンシル芯について、ぺんてるはHB・B・2Bの3種をラインアップしています。(0.2mmで2Bなんて、すごいですよね!)これら3種を順番に試筆したところ、ニーモシネのような平滑な用紙では芯の定着がそれほどでもないので、軽い筆圧でも明瞭な描線を得るためには2Bの芯が私には適していると思いました。いっぽう、図案シリーズなら芯の定着が明らかなので、BあるいはHBまで硬度を上げても良いかと思います。ロディアの用紙は芯の定着がニーモシネよりも多い一方で、紙面と芯先との間の摩擦が思いのほか大きいので、硬度を少し上げてBにしてバランスを取ると快適なようです。そもそもの芯径の細さから出来るだけ筆圧は軽くしたい、でも芯の黒色は紙面に定着させたいという0.2mm芯ならではの繊細な領域を思えば、HBから2Bまで、3つの芯硬度の調整幅がメーカーからすでに用意されているのはユーザーにとって本当に心強いですし、オレンズシリーズの楽しさを倍加させているものと思います。 
 
ぺんてるシャープ芯
 
■ まとめ
ぺんてる製品への思い入れもあってすっかり長文になってしまいました。でも手にすればするほど、書けば書くほど、「オレンズ ネロ」の良さは高まるばかりで、それに加えてオレンズシリーズ全体へのイメージも、いままで以上に良化しているというのが正直な気持ちです。 
 
ただし、ここで申し上げておきたいのは、すでに「オレンズ ネロ」登場以前の「オレンズ」を使っている人でしたら、あわてて「ネロ」を買い増す必要は無いかもしれないということです。「自動芯出し機構」が不要であれば、0.2mmで「シャープ芯のクセをゼロに」という目標はこれまでのオレンズシリーズでちゃんと実現されていますし、大きな流れとしての「書き味」については、実用上の差は無いと言えます。他方、「オレンズ ネロ」ですと、こんなに繊細なガイドパイプを有する、しかも高価な製品を持ち歩くのはためらってしまう問題もあります。それならば500円台のオレンズを複数本持って、自宅や会社のデスク、そしてバッグの中にと各所に配置したほうが気軽に使えそうな気もします。また、私が買った個体は芯先からグリップ、ノックボタンに至るまで高い完成度でしたが、SNSでは製造不良か?という個体の報告も上がっていましたので、少し様子を見ても遅くは無いのではとも思いました。 
 
オレンズネロのパッケージ俯瞰
 
最後にもう一言。まだオレンズ、特に0.2mmシリーズを使っていない人がオレンズを買ったとしたら、あまりにデリケートな芯先に閉口するかもしれません。でもそれは、オレンズが得意とする「領域」にご自身による手指のコントロールや心構えが至っていないゆえに生じる問題です。この事象は、ながらくラミー・サファリのM字ペン先を使っていた人が初めてニブの柔らかい細字のペリカンを使ってショックを受ける時のようなもの。まずは筆記具それぞれの銘柄が持つ「領域」に使い手の側から馴染んでゆくことが必要です。極細芯の強度と性質を理解し、どのような用途・用紙で使うのかを明確にし、オレンズの機構と快適に書くためのコツを身につけて初めて手指にフィットするものです。説教めいた表現で恐縮ですが、文房具は道具ですから、その使いこなしには相応の知恵が必要です。筆圧を自在にコントロールし、0.2mm芯が好む「書体」で文字を書き、オレンズの実力が発揮されるノート&用途を組み合わせてあげてください。
 
※本記事は今のところメーカーへの情報確認無しに書いています。今後間違えが見つかればその都度修正してまいります。 
  
※2017年6月にオレンズについての新しい記事を公開しました。  
  

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