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文具女子とか女子文具とか言うキーワード

  
昨年、業界系の取材を受けていた時に「女子文具っていうキーワード、どう思います?」と質問を受けました。唐突な問いかけでしたので一瞬考えてから、そのときはとりあえず「(物を作る、または売る側が使うとするならば)この先2~3年位まで、ですかね」と答えてみました。
  
まさにこの系統の言葉が使われているイベントがありました。書籍流通の日販(と文具流通のMDS?)が主催されている「文具女子博」です。昨年の回については、あちらこちらの出展社や一般参加者から大盛況だった様子をお聞きしていて、最近では珍しく「本当に物が売れて賑わった」話題で大変よろこばしいことと思っています。
  
このイベントによって「女子文具」あるいは「文具女子」というキーワードが市場に少なからずの影響を与えたことは素直に歓迎すべきことで、これをきっかけに文房具を趣味のひとつとして捉えてくれる女性ユーザーが増えてほしいと願うところです。
  
「文具+女子」というキーワード
  
ところでこの「○○+女子」って以前にどこかで耳にしたなと思いました。「カメラ女子」というキーワードでした。女性向けを意識したカメラ雑誌として「カメラ日和(2004年~)」や「女子カメラ(2007年~)」が創刊。2010年にはカメラメーカーのオリンパスが同社の「OLYMPUS PEN」シリーズのCMに女優の宮崎あおいさんを起用。2013年頃より各所で「カメラ女子」というキーワードを見聞きするようになりました。
  
では、いまカメラを手にする女性をカメラ女子と呼称するのはどうでしょう。私は少しためらいを感じます。と言うのも、最近の女性ユーザーにはカメラを深く理解している人がとても増えていると実感しますし、カメラ女子というキーワードが使われ始めたときに少なからず含まれていたであろう「(男性目線での)女子なのに機械物を使っていて珍しい」とか「(同)女子がカメラを手にすると可愛い」といった意味合いで呼称するのは、もはや女子、いや女性に対して失礼になってしまうと考えるからです。女性みずからが自身のことを「カメラ女子です」と言うのは良いのですけど。要するにメーカーやメディアが商売のキーワードとして「カメラ女子」を使うのは、いまはもう控えたほうが良いのではないか。少なくとも私はそう思います。
  
もちろんその当時は、メーカーやメディアがこのキーワードを使ったことでカメラ市場は賑わったでしょうし、(のちにハードウェアはiPhoneやスマートフォンに置き換わってしまったとは言え)カメラが女性にとっての大切なアイテムとして格上げされた、それらの成果と功績は認めるところです。ただ、いまはもう「珍しい」や「可愛い」を背景にした販促キーワードとしての「カメラ女子」の役目は終わったということです。
  
宮崎あおいさんは今でもオリンパスの宣伝広告に出演されています。興味深いのは、そこで彼女が使っているカメラが(TVCMでは)エントリーモデルの「PEN」から上位機種の「OM-D」へとシッカリと置き換わっていることです。つまりオリンパスは「カメラ女子の、その先のストーリー」をちゃんと描けているわけです。
  
そうしたキーワード「カメラ女子」のたどってきた道を見れば、基本的には「文具女子」もいずれ「卒業」が待っていると考えておいたほうが自然なのではないでしょうか。
  
「文具+女子」というキーワード
  

  
ただし、「いま流行っているから採用してみた」ではない、明確かつ戦略的なマーケティングを心がけるのであれば、文具女子(女子文具)のキーワードをより長く続けることも出来ないではありません。そのあたりはアパレル系で参考にできる所も多いものと思います。
  
上手く流れが作れたらしめたもの(?)で、毎年「女子=文具大好き」のループをグルグルと回して維持しつつ、そこから卒業する世代については次のステージ(スタイル、ブランド、価格帯、ジャンル)へと引き上げ、より層の厚い市場を構築することも可能です。
  
ひとつだけ付け加えるならば、企業や主催者がそこに痛いプレーヤー(インフルエンサー)を引き込んでしまったり、キーワードに絡むちょっとした事件などが発生した場合、一気にその城が崩れてしまう恐れもあります。特定のキーワードに頼るリスクについては覚悟しておかなければなりません。
  

 
さて、別の視点で考慮すべきは、日本でもようやく浸透してきた「性差表現を回避する世の中の動き」です。これはここで丁寧に説明するまでもありません。なにかを取り上げる時に、性別で囲うことの危険性です。幸い、文具という単語はどちらかと言うと可燃性が低く、安全とも言えます。これが「調理女子」とか「掃除女子」なんて言ったら即、炎上ですよね。だからと言って、可燃性が低いなら良いというわけでもないでのですが。
  
いまのところ安全とは言え、先行して流行った「カメラ女子」の時代と世の中は変わっているはずですから、周囲の活況につられて安易に「文具女子」に便乗し、コントロールを誤ると痛い目に遭うかもしれず、細心の注意は必要でしょう。
  
ポジティブに考えますと、日用品でありながら「キレイ・カワイイ」のポテンシャルを多分に備えた「文具」には「女子」というキーワードはぴったりと思いますし、そういうイベント類に女性の友達同士とか、お母さんと娘さんが来て一緒に楽しく買い物をする風景をイメージすると、とてもうれしい気持ちになります。
  
留意すべきは、メーカーや流通、小売店としては、このキーワードの鮮度や安全性について気をつかうこと。それと「現実の文具女子」本人たちは経験を積んでこの先どこに向かうのか、ストーリーを各社なりにちゃんと描いておくこと。それらふたつではないかと、私は思います。
  

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